「ハイ」たちのアルメニア語

アルメニア語

アルメニア人は，自称を「ハイ」彼らの郷土を「ハヤスタン」アルメニア語を「ハイェレン」と言います。

アルメニア語は，ヒッタイト語，ペルシャ語，ギリシャ語，ラテン語，ヒンディー語，ドイツ語，英語，ロシア語などと同じく，インド・ヨーロッパ（印欧）語の仲間です。したがって，他のすべての印欧語と共通の文法構造と語彙とをもっています。

アルメニア語．．英語　．．．．． ロシア語

dur　．．．．． door　．．．． dver

asun　．．．．．autumn　．．． osen

「印欧共通基語」の成員であったときも，また紀元前３０００年頃といわれますが共通基語から分岐した後も，アルメニア人は近隣の諸民族と多彩に接触しましたので，かれらの語彙を借りたり，かれらに自分たちの語彙を与えたりしました。その隣人はインド・ヨーロッパ人だけではなかったので，アッカド語，フッリ語，アッシリア語，ウラルトゥ語（新フッリ語）などの語彙がアルメニア語に入ってきました。

ギリシャ語もまた，早い時期に印欧共通基語から分岐したので，アルメニア語とギリシャ語には似通った語彙があります。

アルメニア語 ．．ギリシャ語．．（意味）

aman　．．．．．．amnion ．．．．皿

yepel　．．．．． epso　．．．． 料理する

しかし，借用のほとんどはペルシャ語からのものです。それは，両民族の，古代からの，長期にわたる地理・歴史上，文化上の関係の結果であって，借用はいろいろな部門におよんでいます。

アルメニア語　．．ペルシャ語

azat 自由な ．．．azata 自由人

kapuit 青 ．．．．kapautaka 青

imastun 賢い　．．mazda 賢い

-stan ところ　．．．stana ところ

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ところで，文語アルメニア語の歴史は，メスロプ・マシュトツがアルメニア文字を創始した５世紀初めにさかのぼります。

アルメニア語の文字が創られるまでは，アルメニア人はギリシャ文字やシリア文字を使って書いていました。しかし，３０１年にキリスト教が国教とされてからは，聖書のアルメニア語訳をつくり伝道をおこなうためにも，自分たちの文字を必要としたのです。

当初，アルメニア語のアルファベット（aybuben）は３６文字からなっていました。その後，１１世紀に２文字が，１９２２年に１文字がそれぞれ加えられた結果，現在は３９文字（８母音，３１子音）あります。

アルメニア語の文語には，つぎのような三つの発展段階がありました。

１．古アルメニア語（またはグラバール）（５−１１世紀）

２．中世アルメニア語（１２−１６世紀）

３．現代アルメニア語（またはアシュハラバル）（１７世紀以降）

現代アルメニア語には，二つの主な方言（コンスタンチノポリスの方言とアララト地域の方言）にもとづいて，西アルメニア文語と東アルメニア文語とがあります。

前者は，トルコ，レバノン，シリア，フランス，南北アメリカなどのアルメニア人によって，後者は，アルメニア，イラン，グルジア，アゼルバイジャン，ロシアに住むアルメニア人によってそれぞれ使われています。

日本には現在，アルメニア人はわずかしかいませんが，出身地ごとに東西両方のアルメニア語が話されています。

やさしいアルメニア語会話の例を末尾に紹介いたしましょう。（日本のカタカナでは表現できないものもありますことをお断りします。ご注意くださいますように。）

聖書は語っています。ノアには３人の息子セム，ハム，ハベテがいました。かれらは，長生きをし，多くの息子，娘，孫たちがいました。セムとハムになにが起きたかを私たちは知っています。

“アルメニア史の父”モヴセス・ホレナツィは，続けて記しています。ハベテはガメルをもうけた。ガメルはティラスをもうけた。ティラスはトルゴムをもうけた。トルゴムはハイクをもうけた。ハイクは，巨人で，見目うるわしく，勇敢で，バビロンの暴君ベル（ニムルード）に服従するのを拒んだ。ハイクは，息子，娘，孫および従者たちとともにアララトの地に来たり，そこに住んだ。その後，紀元前2493年にヴァン湖近辺での闘いでベルを射殺し，バビロン軍を打ち破った。かれらの土地はハイク（ハイクの家系，ハイたちの土地）と呼ばれた。これが，アルメニア人の起源とその呼称“ハイ”についての伝承です。

“科学的な”定説によると，“ハイ”という語は，古代の王国「ハヤサ・アッズィ」の名前からきています。ヒッタイト王国（前１６世紀−前1200年）の粘土板に楔形文字で「ハヤサ」との関係が記されていたのです。「ハヤサ」国は，都市国家のような群小王国の連合体であったようで，ヒッタイト王国の東隣りに，アルメニア高地北西部のクマハ，エルズィンジャン辺りから東はエルズルムに至る，ビウラクン（一万の泉水の意，現ビンギョル）山脈を包みこんだユーフラテス川源流域にありました。

“ハイ”の起源については，主にアルメニア人以外の学者によるものですが，いくつもの解釈があります。そのひとつが，インド・ヨーロッパ語の Paterがアルメニア語ではハイール Hayrとなる例のように，２つの母音にはさまれた t が消失した結果，ヒッタイト語の名前ハッティ Hattiからハイ Haiが生じたとするものです。また，“ハイ”はウラルトゥ王国（紀元前１０世紀−同６世紀）の最高神の名ハルディ Khaldiに由来していると説く学者たちもいます。

では，「ハイたち」は何語を話していたのでしょうか。

なにゆえに, ヒツタイト人とアルメニア人だけが“ハイ”という名前を用いたのでしょうか？また，なにゆえに, ほかの国々は“ハイ”たちをアルメニア（アルメン）人と呼んだのでしょうか？

回答はおそらく，インド・ヨーロッパ人の真の故地が確定されて，明らかになることでしょう。

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